とまれかうまれ、とく破りてむ!

行き場を失った物語の墓場

リンドウの夜想

〇 人生の中にはどうしようもないことが数多くある。基本的に私にとっての物事というのは認識する頃にはどうしようもなくなっている。 そう、どうしようもなかった。 〇 彼女がその白い棒を美味しそうに咥える様子は子供がキャンディーを舐めているのと大差…

『洛中百鬼夜行劇』 第5章「鴨川ポロロッカ」

三条大橋午前二時。西岸の広場から酔っ払いたちが三々五々帰っていく頃、大橋の欄干にもたれ掛かるようにして川の音に耳を傾けていた鳥羽は、東岸の方から川の様子を眺める怪しげな男を発見した。 「あれは...」 鳥羽は目を凝らしてその男を見てみると、なん…

ようせいさんの ざだんかい

---------------------------------------------------- 「どうしようもなかった?」 「なにもしなかっただけ」 「かてきん せんにん?」 「せきにんてんか」 ---------------------------------------------------- 「さんそおいしい」 「なにもかんがえな…

轟く言霊

「歩かなければ棒にも当たらん」とは祖父の言葉だ。祖父が私と話すとき、最後はいつもその言葉で〆られたのでそれは一言一句違わず私の脳裏に刻まれた。特に深い意味があったわけではないだろうが祖父はきっとよく歩きよく棒に当たった人生を送ったのだろう。…

『洛中百鬼夜行劇』第4章「跳梁跋扈シャトルラン」

洛中。 祇園四条の最深部に【バターナイフ】という極めて怪しげなバーがある。実際のところそこはアヤシイなんて生半可なものではなく何の心得もなく入り込んでしまったら最後、生きて翌日の朝日を拝めることはそうそうないといわれる此の世と地獄の境界線で…

『洛中百鬼夜行劇』第3章「怪物レコンキスタ」

鳥羽(トリハ)という名で知られた男子大学生は洛中きっての麻雀打ちであった。少しでも時間があったら麻雀を打とうとするきらいがあり当然大学にはろくに行かず周りには基本的に麻雀仲間しかいなくなったのも仕方のないことであった。 鳥羽は大学には行かな…

『洛中百鬼夜行劇』第2章「泥になった男」

京都市内に存在するほとんどの交差点の名前は【三条河原町】のようにそれを為す縦横の通りの名前に由来する。しかし中には、ただでさえ日本語が通じないがためにごった返している迷惑観光客たちをさらに混乱させようと規則に従わない名を冠した捻くれ交差点…

突発性東京旅行の序

首都に吹き降ろす風は同時期の京都より幾分か冷たかった。あるいは人も冷たいのかもしれないと邪推をたくらむのは午後11時の高田馬場駅構内であった。しかし改札を出るや否や待ち受けていたのは恐るべき早大生の喧騒であった。過剰なアルコール摂取によって…

『洛中百鬼夜行劇』第1章「名前のある怪物」

洛中。 百万遍交差点から南進すること3キロ弱、ただでさえ偏屈京大生の心の如く道幅が狭いため自転車通行に向いていない東大路通りがさらに通行者を苦しめんと険しい勾配をつけだすあたりに八坂神社という日本屈指の神様を祀る不思議物件が居座っている。お…

まえがき

「とまれかうまれ、とく破りてむ」とは、今や比叡山の片隅に埋まってしまい誰にも見向きされなくなった日本最古の道化師、紀貫之公の言葉である。 日本文学史にその痴態を明々白々遺した奇行文(または紀行文)であるところの『土佐日記』は、執筆するうちに作…